現れた、表れたもの。

恐い夢を見た。
哀しい夢を見た。
いや、はやり恐ろしい夢だった。
ただただ恐ろしい夢だった。


眠りに落ちる前に、
湧き上がるどうしようもない気持ちを誰にも迷惑かけないようにと、頬を伝い落ちるものへのせた。


私は幼少期住んでいた家にいる。
私の部屋があり、両親がいて私の子ども達がいる。あとはイマイチ現実とは合わないモノが多い。


夕暮れ時思いがけない来訪者が2人。たまたま私のところへきたタイミングが一緒になった男女1人ずつの来客。大切な人と分からない誰か。片方の素性が起きた今では思い出せないのだ、でも知った顔だったハズ。
正直自信はない。


友人が会いにきてくれたことが嬉しかったが、その来訪のタイミングに疑心暗鬼な心が生まれそれは私をパニックに陥らせた。


どうしても2人の来客の輪郭がハッキリしない、そして会話もさせてもらえない。何も聞こえない。ただ何故か笑顔がないことは分かる。
誰も喜んでいない。
ただ夕闇に紛れてそこに居るだけ…
何故か客人と父がそこに居るだけ。
電気のある場所ではないようだ。
そんな場所はないハズなのに。


グチャグチャになる私の心に合わせどんどん部屋が散らかって行く、
どうしていいか分からなくなった私は渡したいモノがあったとその場を1人離れた。
それを入れる為の紙袋を必死で探す。
2人が持って歩くのに恥ずかしくない紙袋を。とにかく真剣に。


紙袋はあった、でも煎餅屋の紙袋はイヤだ。そんなの渡せない。
焦る心に比例して
部屋はますます汚くなる、
部屋がどんどん広くなっていく、
いつも袋がしまわれている場所に目当ての物はない。
ディズニーストアの袋があったがどうしてかそれもダメだと、必死になって紙袋を探す。


来訪なんて知らなかったハズなのに何故かパンを、2人それぞれのために用意していた。いつ買ったかも分からないウサギとハリネズミの形をした、香りもないパン。
早く2人のもとに戻りたいのに目当ての紙袋が見つからない。
一先ず戻りたいのにその選択肢が選べない。
ただただ苦しくなっていく、
恐くなっていく。


2階でテレビを見ていた娘が私の手伝いをかってでてはくれたが、
私が要領を得ない…娘はパンをただいじる。
息子はプラレールを組み立ててる、なんだか物凄い立派なものになっている。


客人が1人だったら、別々に来てくれたらこんなことにはならなかったようにも思う。

家中探し歩いていると難しい顔で電話をしている母がいた。
でも私は気にしているどころではなかった。
2人が帰ってしまう!
あの人が帰ってしまうと思うと
本当に怖かった。


かなりの時が過ぎたように思えたころ、父が歩いて来た。
私は慌てて聞いた、
「2人は⁉」
「2人は帰ったように思う」と曖昧な返事がきた。
絶望感でいっぱいだった。
もう二度と私のところへ来てくれないのではと感じた。
胸が凄く苦しかった…
帰るなら何故誰も私を呼んでくれなかったのかと哀しくなった。


ふと、携帯の存在を思い出す。
必ず何かあるハズ。だって私に会いに来てくれたんだから!リビングへ駆け出した。
物凄く明るい光が見えた時、私は期待した。リビングの明るい場所に移動しただけ、帰ってない!ここに居るんだ‼と…

ところがそこには叔父の家族がいた。皆髪の毛が金髪に、いやもう白髪に近いくらいの明るさに染められていた…とにかく白くぼけた世界だった。実際の彼らは黒に近い髪色をしている。間違っても金には染めない人たち。

テーブルにはまるでパーティのような御馳走が並べられているけれど、やはりそこには笑顔がなく重い空気が漂い、やはり眉間に皺をよせた母の姿があった。「どうするのよ」とだけ聞き取れた。さっきの電話は叔父からだったのだろう。


携帯を探しに来たことを思い出し周囲を見回すも、その白く霞んだ世界には無かった。

気力をだいぶ失いかけている私は廊下に出、何気なく玄関を見た…するとポケットに携帯が入っていることに気付く。慌てて開くと、ブログのホーム画面があった。
私は玄関から外へ出、ポーチに座りブログに何かがないか探そうとした。小さな声で大切な友の名を呼びながら。
やはりもう1人が誰か思い出せない。

画面は動かない。

あたりはすっかり夕闇に隠されていて、携帯の光だけがモノの存在を映し出す…

私の耳に突然「あー、あー」と声が届く。抑揚のない静かな声。
初め自分の声が黒い世界に反響し返ってきたのかと思った。

すると突然携帯のわずかな光の中に頭が…とても大きな頭が顔が現れた。私を大きな目で見ている。
瞳と呼べるものがあったのか、思い出せない。大きな目…穴… しかし、その顔には敵意はなかったように思う。
でもとにかく恐かった。

私はその恐怖に友の名を呼ぶことをやめられないでいる。今にも消え入りそうな声で友の名を呼び続ける。


頭だけではなかった、
身体があった、衣服は纏っていない…そうまるで指輪物語のゴラムような骨と皮の小さな身体があった。それは脚を抱えて座っていた。私の横に座っていたのだ。

とにかく離れたかった、
私は夢の中特有の重い身体を引きずるようにして玄関を開け、扉を閉めた。
そして鍵へ手をかけた、簡単に動くハズの鍵が重い、必死で鍵を回した、ゆっくり、ゆっくり動く。外から開けようとしているような重さを感じながら…

一瞬、ほんの一瞬罪悪感を覚えた、
外に何かを置いて鍵をしめたことに。

私は玄関に座り込み、深呼吸をした。





私は布団の中にいた。
夢で良かった。
本当に夢で良かった。
笑顔のない世界で、大切な人と二度と会えないかもしれない恐怖。
パニックに陥る恐怖。

でも、外に置き去りにしたモノは私が対峙しなければいけないモノなのかもしれない。私の「現実」だったのかもしれない。 

なんだかんだもうすぐ31、実際何をするにも余裕はない。時間はあっという間に過ぎるが、やってみようかと興味を持ったものを得るにはその場に4年は居なければならないと知る、確実に35になることは分かる。長い。35。私には結構な数字だ。正直私はここに居たくない。

何もしなくても35は訪れる、私が自立する為には必要なのかもしれないし、こんな悩みをもてるのは恵まれているとも思う。

頭が大きかったのは私がこうやってまた頭だけで考えて結論を導きだしてしまおうとしていることの表れかもしれない。
外に居たモノからは敵意…負の感情が全く感じとれなかった、
ただ私がそこに居れなかっただけ。今はそれを受け入れる勇気が器が無かっただけ。

客人も本当に帰ったのか分からない、父に「帰ったように思う」と言われただけだ。

叔父たちの存在はよく分からない(苦笑)まぁ全て何かに当てはめようとしても仕方のないことだ。



取り敢えず私は夢を見た。